初診日を証明できずに諦めかけたが腎不全で障害基礎年金2級に認められたケース
相談時の状況
Ⅰ型糖尿病から腎不全となり、最近人工透析を始められた30代後半の男性からご相談いただきました。同じ病院の透析仲間から、当センターのことを教えてもらったそうです。
社労士による見解
この方は18歳でⅠ型糖尿病と発覚し、インシュリン治療を続けておられましたが、状態は徐々に悪化していき、数か月前から人工透析を始めておられました。
人工透析をされている方は、少なくとも障害等級2級に該当します。
しかし、障害年金はそれだけで支給されるわけではありません。
まずは初診日がいつになるのかを判断し、その初診日を、原則として当時のカルテに基づいて証明しなければなりません。
障害年金制度における初診日は、「障害の原因となった傷病について初めて医師の診療を受けた日」と定義されています。
腎不全の原因が糖尿病なのであれば、糖尿病の症状について初めて医師に診てもらったところが初診日です。
糖尿病が原因で腎不全に至る場合、初診から長い年月が経ってしまっていることが多く、カルテの保存義務は最低5年とされているため、病院に確認してみると既に破棄されてしまっていることが多々あります。
そうなると、初診日を確認できないという理由で、申請をしても障害年金を支給してもらえません。
この方は、初診から現在まで一貫して同じ病院に通っておられましたので、おそらくカルテも残されているだろうと考えていました。
受任してから申請までに行ったこと
ところが病院に確認してみると、既にカルテは破棄したとの回答がありました。
病院の担当者によっては勘違いされており、本当は残っているのに破棄したと回答されてしまうことは珍しくありませんでしたので、その病院の知り合いのソーシャルワーカーにもお願いし、改めて調べてもらいました。
すると、約15年前に電子カルテが導入された際、通院中の患者分も含めて紙カルテを一括破棄されていたことが判明しました。
初診日は、原則カルテに基づいて証明することとされていますが、既に無い場合は、それに代わる客観的証拠が提出できれば認められます。
物的証拠が何も無い場合でも、当時の主治医にお願いし、初診日に関する第三者からの申立書(第三者証明)をお書きいただくことができれば、内容にもよりますが、初診日証明として認めてもらえる可能性が極めて高くなります。
当時の主治医のお名前は、ソーシャルワーカーに調べてもらい判明しましたが、10年以上前にその病院を退職しておられました。
その後の転職先を調べていき、最後に勤務しておられた病院を突き止めたのですが、その病院の知り合いのソーシャルワーカーに確認したところ、ご高齢でしたので既に亡くなられたようでした。
このままでは諦めるしかない状況だったのですが、念のためご本人に当時の状況を思い返してもらったところ、初診時は相当調子が悪く、1週間くらい入院されていたことがわかりました。
その際、当時加入しておられた生命保険会社に入院保険を請求されていたこともわかりました。
ご本人から保険会社に確認してもらったところ、保険請求用に当時の主治医が書かれた診断書が残されていましたので、直ぐに取り寄せてもらいました。
ところが内容を拝見してみると、確かに書かれたのは当時の主治医で、初めて受診された日も判明したのですが、そもそもその病院は2番目に受診したところであることも判明してしまいました。
当時、体調が悪かったため掛かりつけの内科クリニックを受診したところ、危険な状態であることが判明し、その日のうちに現在の病院へ搬送され即日入院となったようです。
内科クリニック受診と同じ日に現在の病院を紹介受診して入院されましたので、この時点でも初診日が認められる可能性はありました。
しかし内科クリニックを同日中に受診したかどうかは明記されていなかったため、認められない可能性も考えられました。
そこで念のため、内科クリニックの医師に第三者証明をお願いすることにし、ご本人に同行してクリニックへ行きました。
すると、何と数週間前にその医師は引退されており、お会いすることができませんでした。
そのまま諦めるわけにはいきませんでしたので、その場で医事課課長にお会いし、事情を説明して医事課課長から引退された医師のご自宅へお電話していただいたところ、何とかご協力いただけることとなりました。
結果
無事、障害基礎年金2級に決まりました。
前述したように、障害年金は初診日を証明できない限り支給してもらえません。
その初診日は原則カルテに基づいて証明することとされているのですが、別の法律でカルテは5年以上経過すれば破棄しても良いこととされており、初診日から時間が経過すればするほど、証明できなくなる可能性が高まります。
今回のようにうまくいくことばかりではなく、結局は証明できなくてあきらめざるを得ないケースもあります。
しかし、可能性を探っていくためには経験や知識が必要ですので、まずは経験豊富な専門家へご相談いただくことをお勧めします。
社会保険労務士 舩田 光朗(ふなた てるあき)
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