腎不全の障害年金で初診日を不当に判断されそうになったケース
相談時の状況
ソーシャルワーカーをされているご主人から、奥様のことでご相談いただきました。
社労士による見解
この方は昔から看護師をされており、主に公的な病院で勤務してこられました。
約20年前、共済組合加入中に勤務先の病院で糖尿病と診断されて治療を開始しましたが、自覚症状があまりなかったため、数年後には定期通院をしなくなりました。
ところが初診から約5年経過した頃に病状が悪化し、度々入院するようになりました。人工透析は、ご相談いただく約半年前から開始されたそうです。
人工透析をされている方は、原則として障害等級2級に該当します。
しかし注意しなければならないのは、「初診はいつなのか?」「初診時点のカルテは残っているのか?」という点です。
糖尿病が原因で腎不全となられた場合は、糖尿病で初診を判断されます。
十年以上かかって腎不全にいたることが多く、初診日の証明を取ろうとしても、既にカルテは破棄されてしまっていることが多々あります。
カルテが破棄されている場合、それに代わる客観的な証拠を提出できなければ、障害年金は支給されません。年金事務所の窓口では、「受診状況等証明書を添付できない申立書」という自己申告の書類を作成すれば簡単に申請を受付けてもらえますが、絶対に障害年金を受給することはできませんのでご注意ください。
受任してから申請までに行ったこと
この方は初診日時点で公立の病院に勤務されていましたので、共済組合に所属しておられました。以前は障害共済年金の対象でしたが、平成27年10月に厚生年金と一元化されましたので、この方は障害厚生年金の対象でした。(平成27年10月より前に受給権が発生する方は、今後も障害共済年金の対象です)
厚生年金の手続きは、通常は年金事務所で行います。しかし初診日時点で共済組合員だった場合は、年金事務所ではなく各共済組合を通じて現在でも手続きを進めなければなりませんのでご注意ください。
まずは共済組合に連絡し、必要書類の郵送を依頼しました。
次に初診の病院へ確認してみると、この方のカルテは既に破棄されていました。
しかし入院記録だけは残されており、また初診時の医師が現在も同病院に勤務されていましたので、年金機構指定の様式である「初診日に関する第三者からの申立書」を作成してもらうことができました。
その後は診断書などの必要書類を揃えて共済組合に提出したのですが、数か月後に担当者から連絡が入りました。
「本部で審査を進めていたところ、『社会的治癒』に該当する可能性があるため、初診から悪化するまでの経過をより詳しく病歴就労状況等申立書へ追記してほしい」と言われました。
『社会的治癒』とは、医学的に治癒したわけでは無いが、症状が社会復帰可能な状態まで改善し、かつ投薬治療を必要としなかった期間が数年に渡って継続していた場合は、再発した時点を初診日として扱ってもらうことができる考え方のことです。
この方は初診の数年後から定期通院しなくなり、その数年後から悪化していたため、審査期間は社会的治癒を適用できると考えたようです。
もしも適用され、再発時点が初診日にされてしまうと、この方は国民年金の対象となり、厚生年金よりも低い障害年金しかもらえなくなります。
実は、社会的治癒は誰にでも適用してよいものではありません。社会的治癒はあくまでも被保険者を救済することを目的に考え出されたものであり、被保険者に不利益となるような取り扱いは趣旨に反するとされているのです。
この方に社会的治癒を適用することは間違いであると担当者に説明し、組合が求めてきた病歴就労状況等申立書の追記と一緒に、社会的治癒についての説明も詳しくまとめて提出しました。
結果
初診日を変えられてしまうことなく、無事障害厚生年金2級に認められました。
障害年金制度は非常に複雑です。
法改正なども頻繁にありますので、プロであっても全てを正確に把握することは困難です。
特に共済組合では障害年金に不慣れなため、間違ったことを言われてしまうことが多いように感じます。
間違ったことを言われても、ある程度経験を積んだ方でなければ判断がつきませんので、まずは専門家へご相談いただくことをお勧めします。
社会保険労務士 舩田 光朗(ふなた てるあき)
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