過去に2つの精神科を受診していた時期があったが社会的治癒が認められたケース(事例№6073)
相談時の状況
障害者相談支援事業所の相談員さんから、非定型精神病を患っておられる50代女性をご紹介いただきました。
社労士による見解
詳しくお話を伺ってみると、この方は10代後半の頃に、職場の人間関係でストレスを感じてA病院の精神科を受診したところ、抑うつ神経症と診断されて数か月通院していたそうです。
その後は転職したことで精神的に落ち着き、通院の必要もなく社会生活を営めていました。
30代半ばで結婚し、義理の両親とのやりとりでストレスを感じて抑うつ状態となったため、近くのB精神科クリニックを1度だけ受診していました。
その後再び問題なく社会生活を営めていましたが、40代半ば頃から、誰かに精神的な支配を受けているという妄想症状が出るようになり、死ぬしかないという考えに支配されていると感じたため、C精神科クリニックへ通院するようになりました。
しかし、「医師が政府と繋がっていて、自分がしゃべる内容が国に伝えられてしまう」という妄想が頭から離れなくなり、数か月で通院を中断してしまいました。
中断後も症状はどんどん悪化していき、その2年後にC精神科クリニックへの通院を再開し、現在まで継続しておられました。
障害年金は、初診日を原則として当時のカルテに基づいて証明する必要があり、カルテが破棄されている場合でもそれに代わる有効は証拠が提出できなければ、残念ながら受給することができません。
しかし調べてみると、A病院ではすでにカルテが破棄されており、それに代わる有効な証拠も一切残っていませんでした。
受任してから申請までに行ったこと
A病院は40年近く前に数か月通院しただけでしたし、B精神科クリニックも20年近く前に一度だけ受診しただけでしたので、社会的治癒に該当するとして、C精神科クリニックを初診として主張することにしました。
社会的治癒とは、症状が改善して投薬などの治療の必要がなくなり、数年にわたって社会生活を問題なく営めていた方が、症状が再度悪化して通院を再開した場合に、再開した時点を初診日と判断する考え方のことを言います。
しかしこの社会的治癒とは制度として認定基準などに明記されているわけではなく、明確な基準があるわけでもありませんので、主張しても必ず認められないこともあります。
診断書や病歴就労状況等申立書の内容から、社会的治癒に該当する状態にあると理解してもらう必要がありますので、書き方に注意が必要です。
C精神科クリニックに現在の障害状態について診断書を作成してもらう際には、ヒアリングに基づいた発症から現在までの状況について文章にまとめ、さらに社会的治癒を主張して手続きする旨の説明も記載した資料を、クリニックの相談員さんにお渡ししました。
相談員さんには社会的治癒を主張する必要がある旨を詳しく説明し、資料と合わせて医師にご説明いただいたのですが、残念ながらカルテには前医の情報について詳しい記録がないとのことで、「過去に複数の精神科を受診していた」という意味合いのことだけ書かれて、すぐに症状が改善したことや、その後問題なく社会生活が営めていたことについては記載してもらえませんでした。
そこで病歴就労状況等申立書をこちらで作成する際は、当時の状況を詳しく記載し、またその状況が社会的治癒に該当するはずだという説明も詳しく書き込んでおきました。
結果
無事に社会的治癒が認められ、C精神科クリニックを初診として障害基礎年金2級の受給が決定しました。
社会保険労務士 舩田 光朗(ふなた てるあき)
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